サカナクション「忘れられないの」の衣装の秘密を解説!80'sの中に今っぽさを落とし込んだ手法とは?
6月21日に公開され、10日間と経たずに再生回数400万弱と脅威の数字をたたき出したサカナクションの「忘れられないの」。80年代を意識したようなMVは、まさに曲のタイトル通り忘れられないインパクトを残し、特徴的なベースラインや独特なダンスは目を瞑っていても脳裏に浮かぶ。
全てが80年代を想起させるMVだが、なかでも注目したいのは衣装だ。
山口氏が着用するジャケットに注目!ゴージラインとシルエットが肝
ゴージラインとは、上襟と下襟の境目(縫い目)であり、下襟(ラペル)の高さとなる部分。位置や角度によってスーツの表情が変わり、高めだとシャープに、低めの場合は落ち着いた印象にまとまる。まったく異なるイメージを持つため、スーツを買う場合には気にしなければならないディテールではあるものの、あまり気にしている方が少ないのも事実だ。
スーツスタイルにおいて重要ともいえるこのゴージラインにもトレンドは存在する。ストリートスタイルのように移り変わりやすいものではなく、緩やかに仕様を変えていくのだ。2000年代より一般的になったのは、高め位置でスタイリッシュに仕上げたモデル。ここ最近のビジネススーツと呼ばれるものは一般的に、ゴージライン標準~やや高めに設定されておりラペル幅は5~7cm程度とやや細めでスマートな佇まい。ちなみに、ファッションとしては“クラシック回帰”によりゴージライン低めで貫禄のあるジャケットが人気を集めている。
さて、山口氏が着ているジャケットはというと、シャツの襟先にほど近い位置でゴージラインが出ている。要するに低めだ。
肩には厚めのパッドが入っており、ウエストにシェイプを若干入れつつも身幅たっぷりで恰幅の良い感じ。パワフルさをアピールしようとした80年代を象徴するジャケットの作りそのものである。ダンスがパワフルなのも、そういうことなのだろう。
実はここ数年で80年代スーツはジワジワと人気を集めている。2017年秋冬には、バレンシアガ、ラフシモンズなどが「ビッグスーツ」として80年代を意識したスーツを展開。2019年にも、ダンヒルが「パワードレッシング」とシーズンコンセプトを掲げ、80年代のパワフルさを取り入れたパワースーツをリリースしている。ダサいのが一周回って格好いいと感じる世代にとっては、ドンピシャなシルエットなのだ。
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オフホワイトを基調としているのもポイント!パステルカラーで80's感もひとしお
メンバー5人が白で揃えた衣装に包んでいるのもポイントだ。オフホワイトやパステルといった色味は80年代っぽさを演出するには手っ取り早い。
というのも、白やオフホワイト、アイボリーといった色合いは80年代に何度もブームとして訪れ、その年代のDCブランドに多く取り入れられていたからだ。パステルカラーは、80'sファッションにはあまり見られる色ではないものの、冷蔵庫やオーブンなど電化製品に多く見られた。
また、それは2019年SSのトレンドカラーとしても注目を集める。ディオールやルイ・ヴィトンは2019年春夏コレクションにおいて、白やエクリュといった晴れやかな色をメインにしたルックを多く登場させた。男女を問わずオールホワイトコーデが流行っている中、サカナクションの衣装はまさに80年代と今をリンクさせたのだ。
FashionPressより出典
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足元に選んだのはNIKEのBLAZER!ほどよいリラックス感がモダンな雰囲気へと導く
スーツに合わせる定番靴といえば革靴に他ならない。が、山口氏がオフホワイトのスーツの足元にチョイスしたのは、まさかのスニーカー。スーツ×スニーカーといえば、ビジカジスタイル、クールビズといったの軽装が許される今の社会では市民権を得た着こなしではあるが、80年代にしては違和感のある恰好。それこそが、サカナクションが打ち出した現代的なニュアンスだ。
しかも組み合わせているのがNIKEのBLAZERなのだから、抜け感がバツグンにきいてる。
楽天より出典
ナイキ初のバスケットシューズとして誕生したBLAZER。一般的なBLAZERならLowモデルもあるが、こちらの「Blazer 77 Vintage Pacific Blue」はMidモデルしかなく、山口氏が履いているのは恐らくコレに限定される。名前に入っている77とは年式のことで、レトロな雰囲気をまとっているのが特徴だ。
スニーカーを合わせるにしろ、浮きすぎないようホワイト一色のデザインを選ぶのが定石だろうが、バスケットシューズを合わせて思い切りの良さをアピールした。80’sスタイルに、現代のストリートスタイルをミックスしたようなスタイリングで、一気に古クサさを払拭している。
パンツの裾を絞っているのも特徴。バスケットシューズの上にクッションが出来るよう設定されている。デカデカとしたシルエットで、無造作に着こなしていながらも、実は計算され尽くされているのだから見事だ。
着こなしから色合わせ、ディテールに至るまで80'sを意識したグラマラスな衣装
どこにフォーカスしても80'sを彷彿とさせる衣装ながら、トレンドカラーやスーツにスニーカーの組み合わせなどを取り入れて巧く現代とマッシュアップ。そのモダンっぽさをスパイスとして活かしたMVを作り上げたサカナクション。
他にもノータイスタイルであることや髪型、サングラスなども触れたい部分だが長くなってきたのでお愛想。ぜひ自分の目でチェックして、MVの空気感と衣装のマッチングの素晴らしさを体感してほしい。